黒田博樹 公式ホームページ『kuro18』

道

2008年FAによりロサンゼルス ドジャースに移籍して迎えた初めてのシーズン。  レギュラーシーズン9勝10敗、ポストシーズン2勝を挙げて、シーズンを終了した黒田博樹。

なかでもハイライトは、チームがリーグチャンピオンシップ2連敗の中で先発し、そのメンタルの強さを見せつけた第3戦での勝利ではなかっただろうか。

後に、ワールドチャンピオンとなったフィリーズ打線の前に仁王立ちした彼の姿は、メジャーリーガーの活躍に熱狂する日本人にとっては誇らしいものだった。黒田博樹のメジャー1年目は大きな一歩を記した充実した1年だったであろう。

そんな1年を黒田博樹は、さて、どう振り返るのだろう。12月某日、黒田は「何もかもが手探りだった」という、実り多い1年を、静かに、しっかりとした口調で、語ってくれた。

【2008年シーズンを振り返る】2008年

- メジャー挑戦
自主トレはやること自体はそんな変わらなかったが、気持ちという部分では、不安は今まで以上に大きかった。
自分の中では何勝したいとか、何をしたいというよりも、優勝を味わいたいというのがあって、その中でどれだけチームに貢献できるかっていうのを考えていた。
当然、勝ち星っていう数字にこだわりがないわけではないが、それ以上に優勝する、優勝したいという気持ちの方が強かった。
先発投手としてはゲームを作るというのが大事なことだと思っていたし、その中で、中4日で回って、ゲームを作るということを考えていた。
— 入国からキャンプイン
アメリカに着いた時は、あまり実感はなかった。ただ、当然のことだが、とりあえず、1年間、野球が終わるまでは日本に帰れないなと思ったのが実感。
キャンプに関しては日本とは違う練習スタイルだから、戸惑いがあった。全体練習が短く、ほとんどが個人の練習。
日本の自主トレの延長みたいだった。だが、せっかくアメリカに行ったので、あっちのスタイルで挑戦したいと思っていた。
日本にいるときとの違和感はあったけど、1年を通して、万全な状態で投げるためには、その調整の方が合っているのかなと思って取組んだ。
—   調整
順調というか、すべてが初めてのことなので、何が良いか何が悪いかも分からなかったし、とにかくアメリカに慣れようと、人の意見を聞いてはいたけど、何事も自分で行ってみて、自分で体験してみないと、肌で感じてみないと分からない部分もあると思ったから人に聞くというよりも、いってみて、肌で体験してという気持ちの方が強かった。
実際はシーズンを通してメジャーというのがどういうものか分からなかったし、自分のスタイルを見つけるのも苦労したので、なんだかんだ言って、プレーオフくらいになってやっと自分のスタイルというのが見えてきたと思う。
—  4月5日、初登板、初勝利
自分の中で全く自信はなかった。どうしたら抑えられるというスタイルもできていなかった。その中で、ああいう形で勝てたというのはホっとしたし、うれしかった。
ただ、それで1つ勝ったからといって、メジャーでやっていけるかというところまではいかなかった。
普段からも、そんな自分に自信を持てる方ではないので、何が良くて抑えることが出来たのかも、全然見えてこなかった。
それが自信につながらなかった大きな原因だと思う。
それよりも、自分のスタイルというのを周りに分かってもらうという気持ちが強かった。日本の方や自分のピッチングを見ている人は分かってくれているけど、向こうに行くと真っ白な状態なんでね、そういう意味で、一から自分っていうピッチャーをみんなに分かってもらうっていうのは大変だった。
—  焦り
勝てないと焦るし、ずっとシーズンを通して手探りの状態だったんで、ガムシャラに投げながら1年を通してやらないといけないと思って投げていた。
特に中4日で回るのも初めてだったし、だから、先が見えない中で自分のコンディションを作るのも、精神的に自分を盛り上げていくのもなかなか難しかった。
ただ、日本の場合は勝ち星で投手を評価する部分があると思うけど、そういう考え方を置いておいて、メジャーではクオリティスタート(先発投手が6イニングを3失点以内に抑えることが出来た割合。メジャーリーグでは勝利数よりも安定感を示す指標として用いられる事が多い)というのも評価の一つだったので、そういう評価の仕方をして僕っていうピッチャーを評価してもらえていたので、(2勝目までが長く)勝てない時期でも、そういう気持ちで何とか乗り切れた。
—  6月7日、初完封
メジャーにいって、完投・完封ができると思っていなかったし、また中4日で回っている以上は次の登板もあるので、完封は頭になかった。
そんな中で、最後まで投げさせてもらえたのは良かった。球数の制限もあるし、なかなかできないことなので、余計に良かった。ただ、そのあと、次の登板で打たれたりしているので、まだ自信にはならなかった。
そんな簡単に自信がつくようじゃ、ちょっとしたことで自信はなくなってしまうと思う。
(自信というのは)ちょっとずつ、少しずつ積み上げていくものだし、すぐ自信がつくのは、それは慢心に近いから。
—  離脱
以前から違和感はあった。おかしいというか、日本にない感覚だった。(故障を)してしまった以上は仕方ないし、早く治して、次、自分が早く投げられるようにと思っていた。
ただ、復帰したゲームはプレッシャーを感じた。緊張感があって試合に臨まなければならなかった。結果は無失点で自分の中では良い登板だったが、プレッシャーのかかっているゲームだった。
—  2度目の完封
自分自身でバッタバッタと三振を取って、力でネジ伏せたというピッチングではなかったんで、まさか、途中まで完全試合でいけるとは思っていなかったし、その頃は勝ち星がつかなかったので、勝てればいいというか、勝ったことにホっとした部分はあった。記録よりも、勝つことに必死だった。
だけど、1年が終わって考えると、8回に安打を打たれたわけで、あと少し頑張っていれば良かったかなと、シーズンが終わって、一歩引いて考えてみると、せっかくあそこまでいったんだったらやってみたかったな、と。
—  前半戦終了、6勝8敗
やっと半分が終わったって感じだった。だから、全然、先が見えないというか、ゴールが見えない中で、一日一日を消化していた。やっぱり、1回走った距離は分かるけど、1度も走ったこともない距離は、あとどのくらいか分からないので、そういう意味でゴールが見えないというか、やったことのないところに飛び込んで、まだあと半分弱ある中で、自分がまたこのままのコンディションを維持して投げることができるのかっていう不安はあった。
—  後半戦開幕、首位攻防戦
トレードなどで、チームの雰囲気が変わったし、優勝を狙える位置にいたから、なんとか優勝したい、というみんなの気持ちはまとまっていたと思う。
優勝争いをする経験が、自分にはなかったので、優勝したいといっても、自分がその場にたって、そのプレッシャーの中でどれだけできるかっていう不安もあった。
だけど、本当に気持ちを強く持って投げれたと思う。
—  リーグ優勝
優勝したメンバーの一員として、ローテンションでまわって、優勝できたのは嬉しかったし、充実感もあった。長丁場をみんなで戦ってきて、その結果で優勝できて、チームみんなで喜べた。
—  プレーオフ/ディビジョンシリーズ
短期決戦だし、メディアの盛り上がり、ファンの反応であったり明らかに球場の雰囲気が違った。 ディビジョンシリーズでのピッチング自体も良かった。
やはりプレーオフのプレッシャーも感じていて、その中で自分の投げたゲームで勝ちを決めて、次のシリーズに行けるというのは充実感があった。
チームはそれまで2勝できていて、ドジャーススタジアムで決めれば良かったからね。1回目のシャンパンファイトより、このときのシャンパンファイトの方がうれしかった。
—  プレーオフ リーグチャンピオンシップ
この試合は逆に開き直って、自分のピッチングをするという感じだった。ただ、リーグチャンピオンシップでドジャースは20数年、勝ってないと聞いていたから、その中で勝てたということが、ひとつ僕にとっては名誉なことだと思う。
ポストシーズンで勝っている日本人投手も松坂君だけというし、そういう意味ですごく名誉なこと。一人の日本人としてああいう舞台で勝てたのはうれしい。
—  シーズン終了
終わってホっとしたというのが一番。やっと1年、やり終えたかなと思ったし、肩痛でDLに入ったりしたが、その中で1年間を乗り切れて、プレーオフにも出ることができ、やっと終わったかなと思う。プレーオフの2試合っていうのが、自分にとっては大きかった。チームメイトやファンに対しても、自分というピッチャーを分かってもらえたような気がしている。
そういう意味では少しね、「少し」だけど、余裕を持って来年のキャンプを迎えられるんじゃないかなと思う。
—  回顧
ほとんど手探りの1年だった。毎試合、毎試合、次の登板に向けて、投げられる状態に戻して、そして、そのマウンドで何とかガムシャラに投げてという繰り返しだった。
中4日も、ボールも、マウンドも、行く前から環境が違うっていうのは分かっていたし、自分で選んで行っているわけだから、それを言い訳には絶対できない。当然、滑るボールもあるけど、その中でも他のメジャーリーガーはやっているわけだから。
改めて思うのは、日本で10数年間やってきたことが結びついたというか、向こうでも何とかできたと思う。
ただ、これで終わりじゃないので。また来年、自分に色々なものを身につけて、プラスアルファを出していかないと、来年もまたいいピッチングができるとは限らない。常に1年1年、その1年の課題を次の年に克服して、プラスアルファをつけていかないと、1年で終わってしまうと思う。
—  精神力
当然、プレッシャーを感じるけど、感じ方も自分次第でコントロールできると思うし、しないといけない。
考え方一つ。プレッシャーを作るのも、自分の考え方ひとつで、大きくなったり、小さくなったりすると思うので、毎回、大きなプレッシャーを感じるけど、それを自分でどう上手くエネルギーにしていくか、ゲームに対するモチベーションに変えていくのかが大事だと思う。
いろんなものをプラスにしていかないと、なかなかプレッシャーのかかった場面でいいピッチングをしていくのは難しい。
プレッシャーがかかって押しつぶされることもあるかもしれないけど、エネルギーに変える努力はしてきた。考え方は人それぞれ、個人の技術だと思う。
—  メッセージ
今年1年、目指していた優勝争い、プラス優勝もできたのは良かった。ただ、ワールドチャンピオンにはなれなかったのでね。そういう上の目標が見えたし、目標が見えるところまでは行けたので、もう一つ上の目標を目指して、まずはそれに貢献できるように、自分がしっかりしたピッチングをして、それを目指して頑張りたい。勝つに越したことはないと思うけど、数字だけにとらわれず、いろんな意味で、僕というピッチャーを評価してもらえるように、数字で表せられない部分ってたくさんあると思うので、そういうピッチャーでありたい。

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